就業規則で防げるトラブル

就業規則で防げるトラブル

 

就業規則を作る大きな意味は働きやすい職場環境の整理や従業員のモチベーションアップなどがあげられますが、一番重要なのは、やはり労使トラブルを未然に防ぐことにあると思われます。

現在、従業員を雇う場合には労働契約書の交付が義務付けられていますが、法定されている項目は最低限の事項に限られており、就業に関する決めごとを網羅しているとはいえせん。


労働基準法第15条 (労働基準法施行規則第5条)

(1) 労働契約の期間に関する事項
(2) 就業の場所及び従事する業務に関する事項
(3) 始業及び終業の時刻、所定労働時間を越える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに交代制の就業転換に関する事項
(4) 賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締め切り及び支払の時期に関する事項
(5) 退職に関する事項(解雇の事由を含む)

本来であれば労働契約で全ての事を決める必要がありますが、個別の労働契約で全てを網羅することは不可能です。

ただ、労働させるためにはその定めをしなければならないというのも事実ですので、就業規則が無い場合どのようなことが発生するかを簡単に記載します。

① 就業規則がない場合の配転や出向を命令の問題

配転や出向に関しては最高裁判決もでていますが、結局のところ、それぞれの人事権が労働協約、就業規則又は個別の労働契約において具体的にどのように規定(根拠)されているか、そして、当該人事権の行使がその具体的な状況からみて権利濫用といえるかどうかによって決まるものであるとしています。
就業規則がない場合、人事権自体の根拠を欠き無効や権利濫用となることも考えられ、会社としては業務の正常な運営のための人事権自体も行使できないと言うことにもなりかねません。

② 就業規則に定めることによって初めて認められる権利義務の問題

時間外労働
休日労働
配転・出向
懲戒権


などがあり、これらの権利義務が認められていない場合、会社は正常な業務ができなくなってしまいます。

仮に、時間外労働に関しての取り決めが就業規則にない場合に、会社が従業員に対して業務命令として残業を命じたとします。

従業員がこれに対して、「時間外労働はしません」と言って帰ってしまったとします。

この場合、会社は何の手だても無くなってしまいます。

時間外労働は、就業規則などに定めて初めて会社は業務命令権を取得しますので、就業規則などがなければ業務命令権自体会社には無いということになりますから、当然強制はできません。

注) 仮に就業規則に定めてあっても、法定労働時間を超えて時間外労働させる場合は、36協定を労働基準監督署へ届け出ていなければ違法となります。

業務命令権がないにもかかわらず、会社がなした命令に従わないことを理由に、評価を下げることもできません。
では、懲戒権の行使をと考えても、懲戒権に関しても就業規則に定めて初めて取得する権利ですので、当然これも行使できません。

このような状況になると、会社の正常な業務はできなくなってしまいます。

会社と従業員の間の関係が良好な場合には、あまり意識することはありませんが、実際に問題が生じて、その問題を解決するために新しい就業規則を作成することや変更するのは容易なことではありません。 (これは、就業規則の作成義務の無い会社でも例外ではありません。)

③ 就業規則がない場合の人事担当者の裁量権の問題

就業規則がない場合に各事案の処理をする場合、人事担当者に全ての判断を委ねることになり、結果として不公平な対応になりかねません。
また、人事担当者が変わり、これまでと全く違った対応をしてしまった場合、従業員はその対応に不満を持ちトラブルの原因となってしまうことも考えられます。

 

就業規則の必要性

従業員が私傷病で会社を休んだ場合で考えてみます。

 

下図は、私傷病の対応を表にまとめたものですが、会社に就業規則がない場合、各時点で人事担当者の判断に頼ることになります。

(下図には同時にトラブルが発生した場合の会社側のリスクと解雇した場合の解雇の有効性の判断として記載しています。

「厳しい」とは会社側のリスクは大きく、「緩やか」は会社側のリスクが小さくなることを現わしています。)

仮に、ある従業員は、休業後1月で退職となり、また他の従業員は休職後3月で解雇ということになると、従業員は安心して仕事もできなくなりますし、対応によっては従業員の大きな不満(トラブル)となりかねません。

 

就業規則の必要性フロー  ←クリックで拡大

 

就業規則が作成されていれば、人事担当者も就業規則からかけ離れた運用はできなくなり、恣意的な運用がされる危険や不公平な対応からくる従業員の不満(トラブル)も少なくすることができます。

当然、会社としては人事権の根拠も明確に出来ますので、就業規則○条に基づいて「休職を命ずる」や「配転を命ずる」ことができるようになります。

そのような環境ができると、会社側は従業員を統一した労働条件により管理でき、従業員は明確な基準の下で安心して働けるようになりますので、結果的には会社の利益につながります。

注) 休職規定がある場合、その規定を使わずに一方的に解雇等をおこなうことはできなくなります。

日本ヒューレット・パッカード事件最高裁第二小法廷 平成24年4月27日判決

精神的不調による被害妄想から、被害にかかる問題が解決されない限り出勤できないとして約40日間にわたり欠勤し、諭旨退職処分となったシステムエンジニアが、処分無効を理由に雇用契約上の地位を有することの確認等を求めた事案の最高裁判決がでています。

注) 近時、有期雇用従業員への労働条件通知が義務づけられ、労働局もモデル労働条件通知書を提供しておりますが、このモデル労働条件通知書には、労働時間等の記載と共に「詳細は就業規則○条~○条」とされています。
このように労働条件通知書の記載事項などからも、就業規則を作成することは重要と思われます。

 

 

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